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先の見えない平成不景気真只中、テレビ新聞などで知名度のある会社の倒産を知らせる。
ごたぶにもれず当社(ファーム庵の他に大橋工業も営む)にも貸し渋り対策資金等々と貸金が有る。
明日は我が身かと思うと夜も寝れない時がしばしば有る。
昨日まで社長と呼ばれていた人が、倒産した日から債権者等に犯罪者扱いされ、
「社長、社長」と呼んでいた社員達にまで呼び捨てで呼ばれる。
特にヤミ金融まがいの取立ては人道では無いと言う。
仮に私の会社がそうだったとしたらと考えただけでもぞーっとする。
4月初旬、友人と3人で秋田県の鷹巣と言う町まで、
探していた高圧殺菌釜があると言うのでトラック2台で取りに行った。
雪が有って運べないとの事で4月初旬まで伸ばしていた。
なるほど道路の路肩には50CM位除雪した雪が残っていた。
雪解けの始まった畑の中から秋田の ふきのとうが一面に顔を出していた。
5時間かけて目指す きのこ博士の家にたどり着く。
博士にも名前はあるがあえて紹介しない。
博士と出会ったのは5年前 私の師匠である“昔のきりたんぽや”の社長 奈良文雄さんの紹介だった。
きりたんぽ料理には欠かせない まいたけを供給していたのだった。
そのまいたけも普通のまいたけでなく巨大まいたけだ。
奥羽本線の廃坑トンネルを利用した栽培方法や、その他にトンビまいたけの人工栽培に成功したり
私どもが行く3日前の秋田の新聞にも中国のきのこでアギ茸と言う
きのこの【人工栽培に秋田で初めて成功!!】と顔写真入りで載っていた。
その他、きのこの事は全て知らないことが無いほどの博士と言うより学者に近い人だ。
身長170cmでやせ型、年齢70歳 顔のツヤがすこぶる良く70歳には思えない。
顔立ちは日本版ジキル博士、話す言葉は秋田弁、
性格・・温厚で人当たりが良く、気品に満ちている。
現在、やぎ3匹と犬2匹との暮らし。
過去に 秋田のオガクズの元締で、長野・福島・千葉等々
きのこ栽培用のオガクズをトラックで毎日何十台も出荷していたが
仲買人に裏切られ多額の負債を背負い、家族との別居。
50歳を過ぎて県の山林を借り 一人できのこ採培を始め現在に至る。
家と言うより棲家に近いものが きのこハウスの裏にある。
奥行き6m×間口4mの農業用のパイプハウスが博士の住まいだ。
天井はブルーシートが張ってあり、
入り口を入って左側に流しらしき物があり いつも水が流れている。
右側には昔のりんご箱か゛木製の杭の上に重ねてあり
中には分厚い本がいっぱい入っている。
正面にはダルマストーブが置いてあり薪などが散乱している。
奥には土間の上にベニア板を敷いた上に布団が敷いてあった。
寒くて異臭はなかったが多少の汚さでは驚かない私もさすがにまいってしまう。
トイレなど敷地のどこを探しても無いし服装も汚れがごたごたの防寒ジャンバーに
ズボンのベルトはゴムひもをぐるぐる巻きに巻いていた。
「寒んむいんで風呂でも入りん行がねすか〜」と言われたので「はい」と返事をすると、
着替えして出掛けるのかと思いきや、博士、
そのままの服装に泥だらけの長靴で車に乗り込んできた。
「着替えしなくていいの?」とたずねると、「ああ いいっす」と返す。
何も言えず車を進める。温泉は村おこしで作った宿泊の出来る豪華な温泉だった。
3人で度胸は決めたものの立派な建物を前にして自信が失せた。
博士は「別に気にする必要はない」と言うが、
防寒着とゴム巻きのズボンを車の中に脱いでもらい
車に積んであった長靴を履いていただいて どうにか温泉に入った。
広い湯船にとっぷりつかりふと、博士の方を見た。
どこにいるのか分からなかった。
洗い場の方にそれらしき人がいた。
「あっ、と思った」。
はだか、みんな同じなんだ。
背筋を真っすぐ伸ばし体を洗っている姿は私には普通の人よりはるかに気品が感じられた。
着る物や身分で人を判断してはいけないのだと
少なからずとも温泉の入り口でちゅうちょした自分自身の心が痛かった。
70歳を超えた博士には夢がいっぱいある。まず住居を建設中だ。
手作りでお金のある時に材料をちょこちょこ買ってあと2年もすれば入れる予定だと言う。
又、博士はきのこの特許を4件持っている。「あと3件特許は取れるがお金がかかるのでもういらない」と博士。
「今研究中のきのこが成功したら日本全国を講演して歩くのが夢!!」
(今でも各県の林業事務所の講演に年3回ぐらいは依頼がある)
私も年に2〜3回は博士に会いに訪れさせていただくが行くたびに考えさせられる。
世間体とか倒産したらどうしようとか考える。
会うたびそんな自分が小さなゴミにしか見えなくなって情けなくなる。
何も怖いものなんてこの世に無いのだと元気と勇気を頂いて帰路に着く。
経営者にはぜひ直接会って学んでほしい人物だ。
原点を大きく踏まえ 前向きに確実な夢を持って
小さなスタンスで人生をおうか謳歌するそんな ○○ ○○博士が私は大好きです。
(2003.4 記)
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